バイオジェニックスとは
食品には、栄養素や嗜好品としてだけでなく、第三の役割として体調調節(健康管理)の機能を備えているものがあります。「体調調節機能」とは、ヒトのいろいろな体調調節、健康増進に働く作用など、いわばヒトの生命活動に対する調節機能のことです。そして、このような「体調調節機能」を有するものを機能性食品と呼びます。
腸内フローラの研究における機能性食品は、その作用機序からプロバイオティクス、プレバイオティクス、そして「バイオジェニックス」(biogenics)に分類されます。「バイオジェニックス」は、腸内細菌の研究の第一人者である農学博士、光岡知足氏によって提唱された言葉です。
光岡氏の文献によると、プロバイオティクスおよびプレバイオティクスは腸内フローラに作用することで体調調節効果を発揮すると考えられている一方で、「バイオジェニックス」は腸内フローラを介する作用だけでなく、生体に直接的に作用し「腸内フローラを介することなく、直接、免疫賦活、コレステロール低下作用、血圧降下作用、整腸作用、抗腫瘍効果、抗血栓、造血作用などの生体調節・生体防御・疾病予防・回復・老化制御などに働く食品成分」と定義されています。
たとえば、ビタミン類や乳酸菌生産物質などがバイオジェニックスに挙げられます。なかでも乳酸菌生産物質は、腸内の善玉菌と呼ばれるビフィズス菌や乳酸菌が生み出した成分であり、文字通り“乳酸菌”によって“生産される物質(代謝産物)”です。乳酸菌生産物質は多種多様な成分で構成されていますので腸内フローラへの寄与だけでなく、直接的に人間の健康への作用が期待できる、まさにバイオジェニックスたりうる物質なのです。
参考文献:光岡知足 編『腸内フローラとプロバイオティクス』(学会出版センター)
伊藤喜久治(編者代表)『プロバイオティクスとバイオジェニックス~科学的根拠と今後の開発展望』(株式会社NTS)
プロバイオティクス・プレバイオティクスとの違い
前述の通り、機能性食品は、大きく分類すれば「プロバイオティクス」「プレバイオティクス」「バイオジェニックス」以上3つのいずれかから成り立ちます。その3つの違いとはどんなものでしょう?
バイオジェニックスは、下の表の通り、腸内フローラを介することなく身体に直接作用することが、プロバイオティクス、プレバイオティクスとの大きな違いとなります。また、バイオジェニックスは”生物により生成された”という語源の通り、タンパク質、酵素反応などで生成される二次代謝物であり、有機化合物(無機化合物は除外)であることがその条件となります。
3つの違いがわかる一覧表
機能性食品の分類とそれぞれの腸内フローラへの作用 | |
バイオジェニックス |
腸内フローラを介さず身体に直接働きかける。腸内フローラのバランスが正常になるように働きかける。 代表的な食品):乳酸菌生産物質、生理活性ペプチド、植物性ポリフェノール、カロチノイド、DHA、ビタミンなど |
プロバイオティクス |
あくまでも生きた菌として腸内フローラのバランスを改善して体調調節を行う。但し体外より摂取した生きた菌は腸内にて発育・定着することは困難(多種類の菌を多量に毎日摂ることが必要)。 代表的な食品):ヨーグルトなどの発酵乳、乳酸菌飲料(生きた菌だけに限定されるもの) ※例:植物由来の乳酸菌(醸造乳酸菌)から作られたぬか漬け、味噌、キムチ、納豆菌から作られる納豆などの発酵食品、ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌などの生きた菌を含んだサプリメント |
プレバイオティクス |
腸内善玉菌の増殖を促し腸内フローラのバランスを整える。 代表的な食品):食物繊維やオリゴ糖を含んだ食品 ※例:サトウキビ、たまねぎ、キャベツ、ごぼう、アスパラガス、蜂蜜、バナナ、牛乳、ヨーグルト、ジャガイモ、ブドウ、きなこ、にんにく、トウモロコシなど(※ただし食品に含まれるオリゴ糖は少量)、オリゴ糖やデキストリンなどのサプリメント |
プロバイオティクスは、人の健康に働きかける生きた微生物(細菌や酵母など)の働きを解説したものであり、プレバイオティクスは、腸内に棲みついている善玉菌の増殖を促し、腸内フローラのバランスを整える食品成分のこと(簡単に言うと善玉菌の餌になるもの)で、腸内フローラを善玉菌優勢にさせる手段になり得るものです。
しかしながらバイオジェニックスは、腸内フローラを介すことなく多種な働きを体にもたらす食品成分なのです。体全体に直接作用することで、腸内の免疫機能を活発化したり、コレステロールや血糖や血圧を安定させたり、活性酸素を減らしたりする可能性が研究・解明されつつあり、バイオジェニックスこそが、生活習慣病や老化の防止に有望だという考え方が広まりつつあります。
菌が生きているか死んでいるかはあまり重要ではなく、死菌も含めて乳酸菌の作り出す物質(代謝産物と菌体成分)が乳酸菌生産物質であり、腸内の免疫機能を刺激することで体全体の機能活性を促し腸内フローラにも良い影響を与える、というメカニズムを理解し健康に役立てていくことが重要です。
この乳酸菌生産物質は、人間の腸内を人工的に再現した環境下で作られる機能性食品であり、バイオジェニックスそのものです。ビタミン、生理活性ペプチド、ポリフェノール、DHAなどの食品成分もこの範疇に入りますが、いずれも単一機能であって乳酸菌生産物質のように健康を司る統合機能は持ち合わせていません。
バイオジェニックスの機能性食品としての作用機序
上で述べたような免疫機能の活発化(=免疫刺激)による体全体の機能活性は、下の図のような作用メカニズムで表すことができます。バイオジェニックスを中心に捉え考えてみると、腸内フローラ改善と免疫刺激が、相互に影響し合いながら生体機能活性を高めていくことが分かると思います。
参考文献:光岡知足 編『健康長寿のための食生活』(岩波書店)より引用・改変
バイオジェニックスは、プレバイオティクスやプロバイオティクスと違ったこれまでの腸内フローラ改善だけに留まらない生体機能活性をもたらす特性を有していることが分かってきています。バイオジェニックスは、プロバイオティクスの進化した形であり、プレバイオティクスなどと組み合わせて摂取し、生活習慣病予防や代替医療、健康維持、長寿のために利用されることに期待したいところです。